笑顔で思い出せるまで

キャバリアっぽくない面白い顔してるね!と言われていたモモは、ほとんど吠えない、穏やかで優しい子でした。子どもたちが小さい頃、少々乱暴しても仕方ないなぁと言うように優しくなめてくれました。

15歳のモモはその日初めてご飯に手をつけませんでした。嫌な予感がして早退すると、下半身が冷たく硬直したモモが倒れていました。かけよって抱き上げた私の顔の匂いを必死で嗅ぎ、「ママ?帰ってきてくれたの?ママ!ママ!」と言っているようで、私は涙が止まりませんでした。
モモは子どもたちが帰ってくる度に、一人一人の匂いを一生懸命嗅いで確認していました。 私たちは動けなくなったモモを交代で抱き、「ごめんね」「大好きよ」と繰り返していました。

時折誰かを探す素振りを見せていたモモは、次の日の明け方に息を引き取りました。後になって気づいたのですが、あのときモモは、単身赴任中のパパの帰りを待っていたのではないかと思います。

ペットロスという言葉は知っていましたが、痛いほどの悲しみに襲われるとは思っていませんでした。我が家に来てモモは幸せだったんだろうか、もっと何かしてあげられたんじゃないか、という後悔で、「ごめんね」ばかりを口にして泣いていました。キャバリアを連れてお散歩をする人を見かけると、妬ましく思う自分がいました。

ひと月ほどそんな日々を過ごしていたとき、部屋の中でカチャカチャとモモの歩く音が聞こえました。カーテンの後ろや廊下で、何度もモモの気配を感じました。モモが私たちを心配して見に来たんだと分かりました。

優しいモモは家族の心の動きに敏感な子でした。誰か元気がない子がいると、一番に気づいて足元に寄り添って座ったり、泣いていると労るように頬に顔を寄せて慰めてくれました。みんな、どれだけ癒やされてきたか分かりません。特に私は辛いとき、モモの前でだけ涙を流すことができました。

モモに心配をかけたらいけないねと家族で話し合い、「ごめんね」をやめて「ありがとう」と「大好き」を伝えていこうと決めました。涙は止まりませんが、笑顔が出るようになり、次第に心が落ち着いてきました。 今でも思い出すとときどき涙が出ますが、同時に暖かいものが胸を満たし、自然と笑みがこぼれます。

今もどこかで、ペットを喪い身を引き裂かれる思いに苦しんでいる方がいらっしゃると思います。急がずゆっくり、いつか「ありがとう」と笑顔で言える日が来たらいいなと思っています。

3年前に愛犬を喪いました。昨年より保護猫と暮らし始めました。
3児の母。保育士です。
動物の他、昆虫や魚も好きです。魚と昆虫は子どもたちが小さい頃に育てていましたが、現在は淡水魚だけが残っています。

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